日本とスイスにおけるオンライン賭博の法的状況

Michael Weber

オンライン賭博は、その利便性とアクセスの容易さから世界中で広がりを見せているが、各国でその法的扱いは大きく異なっている。本ブログでは、日本とスイスにおけるオンライン賭博の法的扱い、関連する罰則を簡単に整理し，それに対する対策について比較検討を行いながら解説する。

1. オンライン賭博の法的扱い（合法性について）

A. 日本

日本では、オンラインカジノの利用は賭博罪や常習賭博罪に該当する。国内でオンラインカジノの入出金に関与したり、広告・宣伝を行ってオンラインカジノに誘導したりする行為は、「賭博幇助」などの罪に問われる可能性がある。

B. スイス

スイスでは、連邦賭博法（BGS）の施行により、適切なコンセッション（免許）や許可を得たオンライン賭博（オンラインカジノゲームやオンライン大規模ゲーム）の提供が合法化されている。しかし、許可されていないオンライン賭博を行うことは違法であるため，すべてのオンライン賭博が当然に認められるものではない。

2. 関連罰則

日本

オンラインカジノの利用者は、刑法第185条に基づき50万円以下の罰金または科料に処される可能性がある。常習的に賭博を行った場合は、刑法第186条により3年以下の拘禁刑に処されることがある。提供者や決済に関与する者、広告・宣伝を行う者は、賭博幇助などの罪に問われる可能性がある。

スイス

スイスでは、違法な賭博を提供した者に対して罰則が科される。具体的には、許可なくカジノゲームや大規模ゲームを提供した場合、3年以下の自由刑または罰金が科される（BGS第130条第1項a号）。その他の賭博ゲームを許可なく提供した場合は、最大50万スイスフランの罰金が科される（BGS第131条第1項a号）。一方で、違法な賭博ゲームをプレイした利用者自身は、原則として処罰されない。この原則は、1923年賭博法（LG）の時代から変更されていない。

3. オンライン賭博に対する対策

日本

日本では、オンラインカジノの広告・宣伝行為が違法とされており，オンラインカジノサイトの開設・運営，アプリストアへのアプリ掲載、SNSでのリンク投稿や宣伝、オンラインカジノを紹介するまとめサイトの作成などが含まれる。ただし、これらの広告・宣伝行為に対する直接的な罰則は言及されておらず，また、違法なカジノサイトへのアクセスを強制的に遮断する「ブロッキング」という技術が導入されている。

ブロッキングは若年層の利用を初期段階で防ぐ「予防的効果」が期待されているが、通信会社が利用者の通信先を全て確認する必要があるため、憲法で保障された「通信の秘密」に抵触する懸念がある。そのため、導入の必要性、有効性、社会的利益、法的整備の要否、具体的な制度内容について段階的な検証が進められており，当面は、通信の秘密を侵害する恐れのないフィルタリングやSNS投稿の削除といった対策が進められ、それでも利用が減らない場合にブロッキングなどの対策が検討される方針である。

スイス

スイスでは、違法な賭博の広告に対しては、最大50万スイスフランの罰金が科される（BGS第131条第1項b号）。また、課税の確保と危険な海外オンライン賭博からプレイヤーを保護するため、ネットワークブロッキング（ドイツ語：ZugangssperreまたはNetzsperre）システムが導入されている（BGS第85条第1項）。これは、許可されていない海外のオンライン賭博サイトをブラックリストに登録し、通信サービスプロバイダーがこれらのサイトへのアクセスを遮断するものである。現在、DNSブロッキングが用いられており、URLが解決されずに情報ページにリダイレクトされる。しかし、このブロッキングは比較的容易に回避できるという問題点も指摘されており，例えば、VPN（Virtual Private Network）を使用すれば、ブロックされたサイトにもアクセスが可能である。また、DNSブロッキング技術は、ドメイン名を使用しないネイティブアプリには対応できないという限界が存在する。

4. ブロッキングの是非についての検討

オンライン賭博サイトへのブロッキング（ネット遮断）は、VPNなどによって比較的容易に回避できるものの、完全に無効であるとは限らない。ブロッキングは、情報を持たない利用者によるアクセスを阻止し、平均的な利用者が遮断されたサイトから合法的なサービスに移行するよう促す効果があるとされている。

スイスでは、連邦賭博委員会（ESBK）と州間宝くじ・賭博委員会（Gespa）が、認可されていない海外のオンライン賭博サイトのリストを定期的に公開し、通信サービスプロバイダーがこれらのサイトへのアクセスを遮断しています。Comlotの観察によれば、海外のプロバイダーは、ブラックリストに掲載され遮断されることを避けるために、自らスイスからのアクセスを阻止する努力をしており、これが予防的な効果を発揮しているとされています。これにより、利用者が合法的なサービスに切り替えることが期待されています。

特に、日本でブロッキング導入の懸念として挙げられる「通信の秘密」の侵害についてであるが、スイスで採用されているDNSブロッキングであれば、その懸念は大幅に軽減される。DNSブロッキングは、プロバイダー（ISP）側がユーザーのトラフィックを直接覗き見ているわけではなく，当局から提供された違法サイトのリストに基づき、そのサイトのアドレス解決を停止し、情報ページへ転送しているだけである。ユーザーがそのサイトにアクセスしようとしたか否かという事実を個別に確認しているわけではない。

これに対し、ユーザーの通信内容を詳細に検査するDeep Packet Inspection (DPI) のような方法は、より効果的であるかもしれないが、通信の秘密を侵害する恐れがあるため、これを導入することに法的リスクが存在する。また、特定のIPアドレスを遮断するIPブロッキングでは、意図しない合法なサイトまで遮断してしまう「オーバーブロッキング」のリスクが生じる危険性があるが、DNSブロッキングではこのような問題は発生しない。

確かに、DNSブロッキングも万能ではないが、「若年層の利用を初期段階で防ぐ」といった予防的効果や、海外の違法プロバイダーが自主的にアクセスを遮断する動きを促す効果は期待できる。これらの側面から、筆者は日本においてもDNSブロッキングの導入を検討すべきだ考えている。

日本とスイスにおけるオンライン賭博の法的状況

1. オンライン賭博の法的扱い（合法性について）

2. 関連罰則

3. オンライン賭博に対する対策

4. ブロッキングの是非についての検討

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