日本人学生がスイスで暮らすために知るべき法律とは?

Category: Student Notes

筑波大学社会・国際学群国際総合学類 大友 柚希

1 はじめに

 スイスは非常に自己プロモーションの上手な国である。永世中立という言葉の印象や、マッターホルンの見えるのどかな山岳地帯などが強調され或いは独り歩きし、その政府が優生思想や国益重視、人種差別といった負の歴史をもつ[1]ことは、少なくとも日本国内においては人口に膾炙しているとは言い難い。外国人への対応の厳格さ乃至理不尽さについては、日本の出入国管理(入管)問題[2]と通ずるところがあるのではないだろうか。また、実際にスイスで暮らした先生も、欧米諸国に広くみられる物価高や言語だけでなく、外国人に対する就労時間制限や連邦と州の異なる命令といったスイスならではの苦労に直面されていた。そこで、「日本人学生がスイスで暮らすために知るべき法律とは」という問いを立て、国籍制度や外国人の地位について調査する。スイス人が日本で暮らす場合と比較しつつ、日本人がスイスで快適に、一時的に、或いは半永久的に暮らすにあたり関わってくる法律や制度を明らかにする。
 また、講義や参考書籍を通し、連邦と州の命令の違いに加え、二重処罰禁止原則の抵触疑惑や、「脱税」と区別される「税金逃れ」の容認[3]など、どちらかと言えば悪い意味での法的曖昧さが目についた。誰にでも現在は全く考えていなくともいつかスイスに住む機会があるかもしれない。自身の将来のために、スイスで快適に暮らすための法律を知識としてもっておくことは有用といえよう。また、比較の過程で日本の法制度も改めて知ることで、人種差別といったスイスの負の側面を、日本は堂々と叩くことができる立場なのか、自己の側を相対化して問い直すことが可能となる。
 さらに、大学では、地元の高校・中等教育学校以前よりも留学生が身近な存在となった人が多い。日本から海外へ留学する場合も、我がことでなければ手続きや準備物を敢えて調べる人は少ないだろうが、ましてや留学生が日本を訪れる場合となるとまずいないだろう。留学生がどのような手続きを経て、膨大な準備をこなしてまで日本にやって来てくれたかを知ることで、彼ら彼女らへの理解や敬意をより深められると考える。
 本稿での調査の結果、日本人学生がスイスで暮らすうえで、スイスにおける外国人の地位・制度を理解することの重要性が明らかとなった。スイスには詳細且つ複雑な滞在管理制度が存在し、EU圏出身者とその他の第三国出身者が区別される。厳格な外国人管理制度には歴史的経験の影響も示唆されており、行動の制約が大きい第三国出身の日本人学生として、知らぬ間に法律違反を犯さぬよう(就労時間制限のように意図的に掻い潜る場合もあれど)、手続きだけでなく自身の身分や地位、許可内容をよく理解して日常生活を送る必要があろう。

 スイスから日本へ

 在留資格制度には、大別してアメリカ型と大陸型の2種類がある。アメリカ型は出入国の審査は厳格だが、一度入国すればその後の行動は比較的自由度が高い。一方、大陸型は欧州にみられ、出入国自体は比較的容易だが各種審査が厳しいという特徴がある。島国の日本は外国人の出入国を比較的容易に管理できるため、アメリカ型を採用しているという[4]。実際に関連があるかは不明だが、国際便に搭乗する際の、他国と比較した日本の出国審査の長さを思い出せば実感しやすいかもしれない。
 スイスから日本へは6か月の査証免除が認められている[5]ものの、長期滞在する留学生は、在留資格「留学」を取得して日本へ入国することになる。この資格は原則、就労が認められていないが、法務省に資格外活動許可を申請し承認されれば、週28時間以内でアルバイトをすることができる[6]
 一方、より長期間滞在するパターンとして、結婚が考えられる。結婚する場合、「日本人の配偶者」として、就労制限のない在留資格が取得できる。申請には「パスポート、外国人登録証明書、戸籍謄本、住民税納税証明書、住民票の写し、スナップ写真、結婚証明書、在留資格変更許可申請書、質問書、身元保証書」の資料が必要となる。資料が外国語の場合は日本語訳の添付が必要であり、「質問書」には結婚に至った経緯や日本語習得方法、披露宴についてまで詳述しなければならない[7]

 日本からスイスへ

スイスの歴史

 スイスの現行制度運用の前に、序論で言及したスイスの負の側面とは何か、人種差別に関する歴史を複数取り上げたい。
 第一に、優生思想に基づく特定民族殲滅活動が挙げられる。被害に遭ったのはインド北西部起源、定住せず移動して暮らす民族・ロマ族。ある公共団体が「浮浪児の援助」としてロマ族の子どもを誘拐し、一方的に野蛮で劣等だとみなした民族とその文化を殲滅しようと計画した。さらにスイス政府がこれを金銭的に支援し、つい最近といえる1972年まで事業が続いていたというのだから衝撃である[8]
 第二に、第二次世界大戦におけるユダヤ人追い返し策がある。1938年、ナチスの人種差別政策から逃れるべく、ドイツ系ユダヤ人がスイスに流入し始めたことを受け、スイスは国境で確実にユダヤ人を識別し追い返せるよう、旅券に目印を捺すよう申し入れた。スイス治安当局の職員は「徹底的な旅券のコントロールを行わないと、彼らを効果的に追い返すことは出来ない」との記述を残している[9]。現代の感覚からすると、虐殺から逃れようとする人を追い返すことにefficiencyを求める神経は理解しかねるが、スイス人の雇用や隣国からの圧力を慮って必死だったことは読み取れる。識別によりビザ取得を困難にするというこの策に加え、1942年、「人種的な理由から入国を図るものは、全て国境で追い返す」という非常に直截的な排除策を決定した。ナチスによるユダヤ人大量虐殺を知りながらのことであった[10]
 第三に、外国人のスイス市民権付与に関する直接住民投票である。スイスへの帰化を希望する外国人は各自治体で本籍を取得する必要があるが、最終的な決定方法は様々で、町民1人ひとりによる住民投票である町も未だに存在する。投票に際し配られるパンフレット(1997年)には、本籍取得希望者の「国籍、住所、生年月日、年収、趣味、職業、結婚歴、学歴、過去の税金の支払い額……」[11]といった個人情報が記載されている点でプライバシーの侵害であり、投票が明らかに国籍に左右される結果を招いた。また、仮に個人情報を十分に保護したうえで、さらに国籍付与は立法的・政治的行為ではなく行政手続きであるという2003年7月連邦裁判所の判決を踏まえて投票理由を提示させるとすると、「住民総会に参加する有権者の投票権が大きく制限されることになる」という指摘もある[12]。直近の話題では、現在人口約910万人のスイスにおいて、人口を1000万人に制限すべきかを問う国民投票を6月14日に控えているが、賛成多数であれば移民の受け入れ停止やシェンゲン協定の終了を余儀なくされる[13]
 最後に、現代法からは離れるが、中世の魔女狩りを取り上げる。スイスは18世紀に最後の魔女裁判を行った、即ち最後まで魔女狩りを続けた国である。当時統一国家でなかったスイス村落は閉鎖社会で、男女かかわらず農夫、治療師、修道士といった知識をもつ人々が危険視されており、「飢饉や疫病などの不安を『誰かのせい』にして秩序を保つことが、共同体の安定につながると信じられていた」という指摘がある[14]。不安の原因を特定のグループに帰す考え方は、現代のヘイトや国籍のみを理由とした排除に通ずるものを感じる。

現行制度

 上記のような歴史的背景を踏まえ、現行の外国人対応について述べる。長期滞在のための許可証は、査証(ビザ)、滞在許可証、労働許可証があり、「スイスにおける外国人を規律する法律は,『外国人及び同化に関する連邦法』(Loi fédérale sur les étrangers et l’intégration, LEI)であ」る。またEU間の取り決めにより、外国人は日本含む「第三国出身者」とEU圏内出身者とで区別されている。留学の際は、1年以上の滞在に与えられる滞在許可証B(residence permit)を取得することになるが、経済活動可能なものと不可能なもの(学生ビザ)がある。学生ビザを経済活動可能なものに切り替えるには、スイス国籍保有者と結婚或いは滞在許可申請を行ってくれる雇用主を発見する必要がある[15]。先生の講義や記事では、実用面から後者について詳述されていたが、本稿では、半ば除外されていた結婚という選択肢に関してもより深く検討したい。
 まず、前者の雇用主を見つける方法であるが、雇用主は、雇用において法的に優先すべきスイス人およびヨーロッパ人が見つからなかった旨当局に説明し、その申請費用を負担する必要がある。また、労働許可を得た場合も、スイス到着後6か月間の経済活動は禁止され、その後もセメスターの間は週15時間に制限される[16]。現在、日本円/スイスフランレートはおよそ¥200/₣だが[17]、1食約¥7,000、社会保障費だけで毎月約¥90,000かかる生活ではとても暮らしていけないということで、給料を現金手渡しでもらい雇用主には労働時間週15時間以内と虚偽の申告をしてもらうという抜け道があるそうだ。筑波大学周辺の個人経営店にもしばしばみられる脱税および上限突破方法である。―が、脱税は犯してはならない重大な罪である。
 一方、スイス人と婚約する場合は、婚姻関係が事実であることを証明したうえで家族呼び寄せ制度を利用することができる[18]。この制度で得られるのは経済活動が可能な許可証Bであり、入国から5年以内に呼び寄せを申請しなければならない[19]。その後はスイスに5年間居住し、且つ結婚後3年以上経過した後に簡易帰化を申請するか[20]、10年間継続してスイス国内に滞在することで永住許可証C(settlement permit)を得る選択肢がある[21]。因みに許可証Cは通常の帰化を申請するための要件でもある[22]

 結びに

 以上の調査・検討を通し、日本人学生がスイスで暮らすうえで、スイスにおける外国人の地位・制度について特に知るべきであると明らかとなった。もちろん、日本にも在留資格変更にかかる申請書類の多さといった障壁があるが、入国後の行動には比較的自由が認められている。一方、スイスには詳細且つ複雑な大陸型の滞在管理制度が存在し、EU圏出身者がその他の第三国出身者より優遇され、日本人の生活には困難が伴いやすい。こうした厳格な外国人管理制度の背景には、労働市場の保護のみならず歴史的な排除構造との関連がみられる。自分の地位を含め、国籍や外国人対応に関する制度を包括的に理解しておくことが重要と考えられる。
 本稿では、いつか自分もスイスで暮らすかもしれないことを念頭に、外国人とりわけ日本人が知るべき法律について調査・検討した。しかし、日本においてそもそもスイスの情報が乏しいことや、いつの間にか築かれた理想の国としての像を覆す意図のためか、必要最低限の手続きや基本的な事項の整理、歴史的背景の確認に重点が置かれる構成となった。条文解釈や判例分析といった法学的検討は十分とは言えなかったと思う。また、自身の興味のある憲法を比較するべく新型コロナ対応に言及したものの、各国の自粛要請や入国制限を述べるにとどまり十分な考察には至らなかった。文献を調べた際に会社法の文献を意外にも豊富に確認できたことから、今後は憲法上の人権保障と外国人管理制度の関係に加え、企業法務や婚姻法と滞在資格の関係など、より具体的に条文一言一句を踏まえ法学的に検討を進めたい。

[1] 福原直樹『黒いスイス』新潮社(2012年)。

[2] 鈴木江理子・児玉晃一『入管問題とは何か――終わらない〈密室の人権侵害〉』明石書店(2022年)。

[3] 前掲,注1,188-199頁。

[4] 佐野誠・宮川真史『外国人のための国際結婚手続マニュアル』日本加除出版(2011年)65頁。

[5] 外務省「査証免除国・地域(短期滞在)」(2025年9月1日) https://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/visa/tanki/novisa.html

[6] 出入国在留管理庁「新しく入学した留学生の皆様へのお知らせ」(2021年3月24日) https://www.moj.go.jp/isa/content/001350360.pdf

[7] 前掲,注4,104-112頁,127頁。

[8] 前掲,注1,13-26頁。

[9] 同上,39頁。

[10] 同上,44-47頁。

[11] 同上,104頁。

[12] 奥田喜道「スイスの国籍付与手続における問題点」早稲田法学80号3巻(2005年)433-452頁。

[13] CNN「スイス、人口制限問う国民投票6月実施へ 移民受け入れに影響か」(2026年2月13日) https://www.cnn.co.jp/world/35243833.html 

[14] 五月雨潤「スイス生活16日目:魔女狩りの記録が教えてくれた、“正義”と“偏見”の紙一重」(2025年11月3日)https://note.com/momusplay/n/n3fe404e739ca 

[15] 篠原翼「スイスにおける外国人学生の滞在許可と労働許可について」SJRA Blog (2020年8月3日) https://swissjapanresearch.org/2020/08/03/スイスにおける外国人学生の滞在許可と労働許可/ 

[16] 同上。

[17] Yahoo!「スイス フラン / 日本 円【CHFJPY=X】Yahoo!ファイナンス(2026年2月19日) https://finance.yahoo.co.jp/quote/CHFJPY=X 

[18] 篠原翼「スイスの滞在許可制度の概要とその法的障壁」SJRA Blog (2021年3月21日) https://swissjapanresearch.org/2021/03/21/スイスの滞在許可制度の概要とその法的障壁/ 

[19] Kanton Bern. (2022, October 3). Familiennachzug. https://www.migration.sid.be.ch/de/start/einreise/familiennachzug.html

[20] SWI swissinfo.ch「スイス国籍取得」(2022年5月11日) https://www.swissinfo.ch/jpn/politics/スイス国籍取得/31271680

[21] 前掲,注18。

[22] 前掲,注20。