人工知能(AI)技術の急速な発展に伴い、その規制に関する議論が世界中で活発化しています。本記事では、特に日本とスイスのAI規制に対するアプローチに焦点を当て、それぞれの国の戦略と特徴を比較検討します。
日本のアプローチ:ソフトローとセクター別規制
日本は、包括的なAI固有の規制を設けるのではなく、既存の法律を改正または解釈を明確化することで、AI関連のリスクを管理しようとしています。政府のAI政策研究グループが2025年2月に発表した中間報告では、企業によるAIリスク管理の自主的な取り組みを尊重し、既存のセクター別法を活用することが強調されています。
日本のアプローチの特徴は、AIの使用を制限することよりも、規制されたセクター内でのAIの研究、開発、およびその実用的な応用を積極的に促進することに重点を置いている点です。2025年2月には、政府全体のAI政策における戦略的リーダーシップ機能を強化するため、首相を議長とするAI戦略本部を設置する法案が提出されました。
日本は、G7の議長国として、2023年12月に広島AIプロセスを主導し、G7諸国は「全AI関係者向けの広島プロセス国際指針」および「高度なAIシステムを開発する組織向けの広島プロセス国際行動規範」を含む「広島AIプロセス包括的政策枠組み」に合意しました。また、日本は、欧州評議会のオブザーバー国として、欧州評議会のAI条約の起草作業に貢献し、署名しました。
スイスのアプローチ:既存の法的枠組みの適応
スイスは、AIに関する特定の規制を導入するのではなく、AIによって引き起こされる課題に対応するために、既存の法的枠組みを適応させる方針です。欧州評議会のAI条約の署名と批准が予定されており、スイスは2026年末までに、透明性、データ保護、無差別、および監督に焦点を当てた、既存の法律に対する適応と修正を明記する法案を公表する予定です。
スイス政府が推進する規制アプローチは、イノベーションの促進、基本的人権の保護、AIに対する国民の信頼の向上という3つの目標に基づいています。スイスのアプローチの重要なポイントは、欧州評議会のAI条約の国内法への組み込み、セクター別の法律の修正、および自己宣言協定や業界ソリューションなどの法的拘束力のない措置の活用です。
比較と結論
日本とスイスは、欧州評議会のAI条約署名国として、その実現に向けて法改正を行う点で共通しています。また、両国とも、包括的なAI法ではなく、セクター別アプローチで対応しようとしており、イノベーションを促進しつつ、倫理的な懸念やリスクに対処することを目指しています。
今後の動向として、両国が国際的な規範形成にどのように貢献し、AI技術の発展と社会への実装をどのようにバランスさせていくかが注目されるでしょう
関連リンク:
スイス
- Federal Office of Communications, Artificial Intelligence:
https://www.bakom.admin.ch/bakom/en/homepage/digital-switzerland-and-internet/strategie-digitale-schweiz/ai.html
日本
欧州評議会AI条約
- Council of Europe, The Framework Convention on Artificial Intelligence:
https://www.coe.int/en/web/artificial-intelligence/the-framework-convention-on-artificial-intelligence
- 外務省、人工知能と人権、民主主義及び法の支配に関する欧州評議会枠組条約の署名:
https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/pressit_000001_01725.html
コメントを残す